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Eternita

日々の愚痴・妄想小話駄々漏れの場所。 内容はさしてないです....

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遙かなる時空の中で3

またしても望美オンリーでの将望。
十六夜記後3年ほど経過したこと前提のお話です。
同棲…ってのは蔡岐の願望ですよw


歩き続ける、雨の中を。

街の雑踏は遠くに聞こえて、けれど途絶えることはない。


「ただいまぁ」

答えてくれる声はない。
将臣君は、バイトで帰ってこない。

「はぁ……」

誰もいないがらんとした室内を見回して、ため息をつく。
最悪、と思わず言いそうになってやめる。
言葉は怖い、一度発してしまった声は戻らないんだ。

「…さっき、わかったはずだったのに」

覆水盆に返らず、なんて向こうの世界のみんなは言いそう。
実際その通りだった。
やってしまったことは、後から悔いる以外、どうすることもできない。

「お風呂、入ろ…」

気持ちを切り替えるように、自分に言い聞かせる。
じゃないと、いつまでもリビングで悶々と考え続けてしまう。

「うっ」

寒気がした。
背中を冷たいものが走っていく感覚に、やっぱりさっさと温まろうと急いだ。



「ふぅー」

初秋とはいえ、雨に降られた体はかなり冷えていたようで、お湯に浸かると柔いだるさが襲って気持ちよかった。
熱めのお湯に首まで浸かる。
じんわりと芯から温まる心地が、何とも言えず快感だ。

「気持ちいー」

小さく呟いたはずの言葉は風呂場という環境のためか、かなり大きく聞こえた。
熱の戻った指先で頬に触れる。

「んー」

冷たい頬は、それはそれで気持ちいい。
手のひらで頬全体を覆い、そのまま目の上まで指を被せる。
見えるはずのない天井を見上げる。

「あったかい……」

瞼を閉じて、その上を指で覆って、暖色電球の光も届かない。
浮かんでくるのは、さっき見たネオンと仲睦まじそうなカップルと、携帯電話だけ。
あ、あと、将臣君の背中だった、なぜか還内府姿の。

「……っ」

頬を伝う熱はきっと手についたお湯だ。
なま暖かい滴は、頬の端を通り顎を伝い降り、戻るべきお湯に溶けて消えた。

幸せか、と聞かれたら間違いなく、幸せです、と返すことができる。
今、私は本当に、幸せだから。
幸せで恵まれすぎて逆に不安になるほど、私たちは毎日一緒にいる。
朝起きて朝食食べて大学へ行って、昼食はキャンパス内の芝生で食べて、夕食を食べてお風呂に入って寝る。
そのほとんどを将臣君とともに動いて、一緒にやっている。

帰るべき場所、帰ろうと思う場所が同じってなんて幸福なことだろう。
もう2年、私達はその状態を続けている。


水滴は止まることなく、落ち続ける。
いい加減誤魔化しきれなくなってきた。

ほんと、こんなに幸せなのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう。

「将臣君…っ」

街中で見たイルミネーションが甦る。
急に降り出した雨に通行者が右往左往して、慌てて屋内に入る人、傘を差して外に残る人、周りがそれぞれ行動する中で、ツリーに垂れ下げられた発光ダイオードっていうのかな、その光をずっと見ていた。
雨は冷たかったけど、不思議と寒さは感じなかった気がする。
私にとっては真冬の寒さより、将臣君が隣にいないことのほうがつらかった。


お風呂をあがる。
ちょっとじゃなく体が熱い。

「……入りすぎた、かな」

逆上せてはいないと思うけど、頭の中に霧がかかったような、もやもやした気分が思考を邪魔する。
心なしか頭も痛いような……

「やだ、風邪かな」

それは困る。
今日はだめだったけど、明日こそは将臣君とどこかお出かけしたい。
風邪気味だなんてしれたら一日無駄にしてしまう。

「んーーっ」

将臣君を待っていたい。
……けど、早く寝た方がいい。

揺れる。

「ソファー」

に座って、落ち着こう。


「はぁーー」

たいして何もしていないのに、大きなため息が出た。

今になって思えば、やっぱ私は期待してたんだ、将臣君とのイヴデート。
昨日はからかってくる将臣君の手前さして気にしてない振りをしたけど、すごく楽しみだった。

「遅いな、将臣君」

キャンセルになった理由は簡単、急なバイトが入ったから。
本来担当だった人が風邪で休んで、代打の人も怪我をしてしまって、ピンチヒッターを将臣君が頼まれた。
お世話になってる店主さんだから断れなかったのは、仕方ない。

義理堅くて責任感が強いから、きっと閉店後の掃除まで請け負っちゃうんだろう。
帰ってくるのは夜中過ぎだ。

「寝ようかな、」

そう言いながら、ソファーから動けない。
一人のベッドに移動する気にはなれない。
だったら、少しの間だけでもここで横になっていよう。

「まさおみ、くん」

呼んでいると、なんだかほんわかと心が温もるから、将臣君は本当に不思議だ。
精神安定剤?
栄養分?

「ぷっ」

将臣君がカプセル型の着ぐるみを着ているのを思い浮かべて、思わず吹き出した。
笑える。
白衣と、……あと、眼鏡をかけて医者とか、すごく似合いそう。

「もっと、…もてちゃう、ね」

だんだん瞼が重くなってきた。

二人分のソファーで横になりながら、ぼんやりと正面のテレビとその後ろに窓を見る。
カーテンを閉めているから外は見えないけど、ここは小高い丘の上にアパートを建てているから3階でも景色はすごく良い。
夏なんかはベランダから見える月を二人で眺めるのが、お気に入りだ。
私も、将臣君も、この世界へ戻ってきてから変に風流になってしまった。
代表がお月見で、満月や十六夜月の時はじぃっと喋らず待っていたりする。

「まさお、み、…ん」

眠気と重力には逆らえない。
落ちきろうとする瞼の隙間から、目は、見えないはずの月を捕らえていた。
 

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