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Eternita

日々の愚痴・妄想小話駄々漏れの場所。 内容はさしてないです....

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オリジナル小説です。
ので、読むときは十分お気をつけください!(笑

なんだか、男の子が一人で延々語ってるだけなんですが、むっしょうに書きたくなってしまいました。
内容も大したことのない、蔡岐が月と風船と母校が好きだってだけです。

走る走る、風船は僕を突き放そうとするかのように加速する。
負けずに走る。

あんな、ぼてんと太ったように丸い赤風船なんかに負けてたまるかっ!

そう思った。



「雄大っ」

「うおあぁっ」

漫画みたいな叫び声をあげ、思わず恥ずかしさで下を向く。

「雄大、早く来いよ!試合始まってんだぞっ」

「……おお」

やる気なく答えてしまったのは、別にこいつがファンだっていうサッカーチームを馬鹿にしたからじゃない。
俺もこいつも中学高校とずっと部活一筋だったから、叶わないとわかっていても、こういう場所に立つことを許されたプレイヤー達には嫉妬する。
それと同時に、純粋にすげーとも思う。
俺が6年間泥汗にまみれてたどり着けなかった舞台に身を置いている選手達は、おかしいかもしれないけど俺たちの誇りだった。

ただ、思い出していただけだ。
あいつに声をかけられるまで、空に浮かぶまん丸の月があの日の風船に見えて仕方なかった。
あの風船には、二度と手は届かない。



試合ははっきり言って一方的だった。
結果は連れの贔屓にしてるチームのボロ負け、敵チームは4点をあげた。
おかげで、帰りの雰囲気は最悪だ。

「…………」

こんな時は何を言っても無駄だと経験でわかっている。
クラスの女子は俺たちのことを親友だ何だと表していたが、そこまで大層なものでもない。
ただ付き合いが長けりゃ、嫌でも相手の性格くらい熟知できる。
頭にきてる時のこいつは見境がない、絡まれて怪我でもしたらそれこそ馬鹿みたいだ。

店で飲むこともなく、終電に乗り最寄り駅に着いた頃には一時を回っていた。

「あー、ちくしょうっ」

閑散とした駅で声を上げた親友を、やっと復帰したか、と見やった。

「おい、すれ違った人間絶対俺らのことを喧嘩中だと思ってたぞ」

「悪かったな……あー、くそーっ」

陰険な空気の抜けた分だけ、愚痴を言ってやる。
頭を掻いて目をそらせたやつの口から小さく「ごめん」と聞こえてきて、俺は報復を終了した。
決まりが悪い時、後頭部を触る癖はまだ抜けないらしい。
もしかしたら気づいてもない、か。

「じゃあな」

「ああ、明日な」

駅のすぐそばにある大学へ二人そろって進学したのはまさしく偶然だが、腐れ縁もここまでくるとさすがに感動を覚えそうになる。
下宿先が大学を挟んで真反対だったことで、どうにか感涙一歩手前で踏みとどまった。
万歳、花積み荘!我が下宿!!

軽く手を挙げて、他称親友の背中を眺める。
俺も回れ右をして、街頭の少ない民家の間の道を進んだ。

丸々と太った月ははち切れんばかりの輝きを放っている。
また、だ。
黄色い月が、真っ赤に見える。
食べ頃のトマトのように赤かったあの日の風船と同じく、どれだけ俺が手を伸ばしても届かないものだった。

手を離してしまったせいで、風に乗って宙高く舞い上がった風船を俺は追いかけた。
日曜で、チャリティー運動会なるものをやっていた小学校の校庭の隅から、赤い赤い俺の風船は空へ旅立ち始めた。
人でごった返す中を必死で、夢中で空を見上げて追いかけていた。
当時の俺より小さい女の子とぶつかったような気がしたが、振り向かなかった。
どんどん上空へ昇っていく球体から目を離さず、駆けっこの好きだった俺は振り放されまいとがむしゃらに、足を前に動かして手を振って。

精一杯走れば、あの風船に手が届くと信じていた。

んな訳ないのに。


いつの間にか、花積み荘の近くまできていた。
大学まで徒歩で15分前後のところをずっと上を見ながら歩いていたせいか、首が痛い。
目がちかちかする。
目をつむっても、緑色の丸い物体が出てきて、少し腹が立つ。

大学に入って、俺達はサッカーをやめた。
サークルには入ってもいいか、と思ったが、結局は入らずじまい。
やつのようにこれといって気に入りのチームを持たない俺は、誘われなきゃ試合を見に行くこともないから、この半年ですっかりサッカーから遠ざかっている。

鍵を取り出し扉を開け、部屋へ入る。
風景は朝と同じ、変わったところは見あたらない。
電気をつける。
そうすれば、これ以上満月を感じない。

好きだった駆けっこも得意の化学も、高一の時初めてできた彼女も結局は長続きしなかった。
6年間やり通したサッカーも、今はあまり興味の対象にならない。
小学生だったあの日、旧校舎を曲がったところで見失った風船の行方を、俺は考えようとしなかった。

何か摘む気にもならず、ベッドに転がり電気を消す。
寝付きはよい方だが、今日は目がいやにさえていて、眠れる気がしない。

風船を見失ってから、俺は適度に諦めることを身につけた。
適度に頑張って妥当なところで見切りをつける。
わき目もふらず全力疾走するのもいい、けれどそれじゃあいつかのどこかで必ず息切れする。
どこにも見あたらない風船を探し回って、その後襲われた虚脱感は、俺から全てのやる気を奪い、代わりに適当を見極める冷めた目を与えた。

ちくしょう、と呟く。
小さな声は誰にも聞こえることはなく、青黒い天井に消えていった。
灰色を通して見る俺の手の平は、ごつく節榑立っていって、男女関係なく小さく柔らかかった幼い頃の面影な微塵もない。
睨むように掲げた両手を見て、それから目をつむる。
寝返りを打ち、窓に背を向けた。

風船はふわうわと持ち前の軽さを発揮して、手の内から抜け出していった。
一度手放した風船の糸を掴むことは二度とできなくて、俺は酷く泣いた。
泣いて泣いて、風船を配っていたおじさんを困らせて、それでも最後の一つだった赤い風船の代わりは、手にできないまま。

風船を手放してしまった俺が失ったもの、風船の中に詰め込まれていたものは何だったのか。
風船を見失った俺が手にしたもの、誰の手も届かない高見へ昇っていった風船は代わりに何を失ったのか。

俺の過ちは、風船の行き先を考えないことだった。
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