Eternita
日々の愚痴・妄想小話駄々漏れの場所。 内容はさしてないです....
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彩雲国物語 双花
前の続きですが、なくても読めると思います。
楸瑛、絳攸共に暗く救いようのないお話、捏造ですのでお気をつけを。
前の続きですが、なくても読めると思います。
楸瑛、絳攸共に暗く救いようのないお話、捏造ですのでお気をつけを。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「夢を・・・・」
「夢?」
何処か遠くを見るように、ぽつりぽつりと絳攸は話し出した。
それを優しく誘ってやるのが、おそらくまず最初の私の仕事なのだろう。
「ああ、・・・・・・すごく懐かしい夢を見たんだ。」
懐かしくて、でもあまり思い出したくない夢を。
そこまで言い切って絳攸は胸のつっかえを取るかのように大きく息を吐いた。
相変わらず彼の瞳は私を映さない。
ただあるはずのない過去を求めて残像を求めて雨降り出した窓の外を見ていた。
「絳攸、」
静かに、できるだけ彼の気をそがないようにゆっくりと先を促す。
「ある、晴れた日にな。父が、顔も覚えていないんだが。」
たぶん、血は繋がっていなかったと思うが、父がいて。
病弱だった母がいて、俺がいて。
思い出したくない、というのは彼の幼少時代の事だったからか。
確かに黎深様の養子なるまではいろいろと苦労していたのだと思う。
「その父が、俺の手を引いているんだ。そのまま山に連れて行かれた。
母がその時寝込んでいて、・・でも薬を買うような金は無かったからな。
よく覚えていないが、大方二人で薬草を探しに行ったんだと思う。」
そして付け足すように「ああ、」と。
「父はそう言う事に詳しかった。」
薬草とか、・・医者ではなかったが、病気や薬に詳しかったんだ。
淡々と事実だけをはきだす絳攸の表情に苦しさはない。
まだ夢の続きでも見ているかのような、
彼自身が懐かしいと形容した遠い遠い昔のほんの少しの記憶を手繰り寄せるような、
けれどそんな努力さえも煩わしいといった感じの何とも言えない顔。
違和感、がないと言えば嘘になる。
けれど私は彼の聞き手役に徹するしかないのだろう。
―絳攸の、心を潤すのは私の言葉ではないのだから―
私はただ聴けばいい、彼の気が収まるまで。
李・絳攸がいつもの絳攸に戻るまで。その後は、・・・きっとあの方がなんとかするのだろう。
それが悔しくて悲しくてやるせなくて、堪らなかったとしても。
それを決めるのは私ではなく、彼。
「うん、それで?」
「父と一緒に薬草を・・たぶんそうなのだろう、持って帰った。
夜になって寝る前に、父が母に煎じたものを飲ませているところを見たんだ。
それから・・・朝になって、」
そこで絳攸は急に言葉を切った。
心なしか表情のなかった顔に、わずかだが恐れと悲しみが見えた気がする。
「朝になって、部屋に・・・」
「うん。」
「入って、いって、」
「絳攸?」
だんだんと語尾が小さく震えるようになってくる。
見ると、絳攸の顔には驚愕と確かな恐怖が刻み込まれていた。
「あ・・・っ、」
「絳攸?どうしたんだい。」
絳攸は自らの肩を抱きこむ。
そしてそのまま身を縮めるように椅子の上で蹲ってしまった。
慌てて駆け寄ろうとすると、突然意味をなさないうめき声をあげて椅子から転げ落ちた。
「絳攸!!」
「ああっ!・・・楸っえい・・!」
「どうしたんだい!?」
急いで抱き起こすと、絳攸が縋るように服を掴んでくる。
わなわなと体を小刻みに振るわせながら、いっそ絶望でも見てきたような表情で私を見上げていた。
「大丈夫っ?」
「うう~、しゅうぇいっ・・」
どうにか彼を落ち着かせようと、微妙に声が裏返りそうになりながら、精一杯穏やかな表情で問い掛ける。
いまにも泣きそうに歪められた顔に僅かでも安堵を与えてあげたかった。
「楸瑛、楸瑛っ・・・・」
私の名を呼ぶにしたがって強くなってゆく腕の力が、
苦悶に支配された彼の表情が、額から落ちる大粒の汗が余りにも常の彼と違っていて、
浅はかすぎた自分に激しい嫌悪を覚えた。
―ああ、絳攸。君はこれほどまでの陰を背負っていたんだね。―
「しゅうえー・・・っ・・あ、」
無理に開けてはいけなかった。
どうしてあの時、
動揺していた君を無駄によく回ると評判のこの舌で巻いて誤魔化してしまえなかったのか。
「ごめん、・・ごめんね絳攸。」
「しゅっぅ、えいっ」
舌っ足らずに、それでもまるでこの世界の中の唯一の支えのように私を呼び続ける絳攸に。
謝罪する以外、今の私に一体何が出来るのだろうか。
「ごめん・・・・」
「しゅうえい」
大粒の涙をこぼしながら、力の入らなくなってきた指でそれでも私の衣を掴む君の手を、握り返すことは果たして許されるだろうか。
混乱しながらも私の姿に安堵を覚えてくれる君に寄り添う資格が・・・私に・・・・・・・。
「しゅう、えい・・」
だんだんと小さくなっていく彼の声が、優しく温かな睡魔の世界へ誘われている証だと、頭ではわかっているのに。
その時の私には、雷帝の最後通告のように感じられた。
「夢を・・・・」
「夢?」
何処か遠くを見るように、ぽつりぽつりと絳攸は話し出した。
それを優しく誘ってやるのが、おそらくまず最初の私の仕事なのだろう。
「ああ、・・・・・・すごく懐かしい夢を見たんだ。」
懐かしくて、でもあまり思い出したくない夢を。
そこまで言い切って絳攸は胸のつっかえを取るかのように大きく息を吐いた。
相変わらず彼の瞳は私を映さない。
ただあるはずのない過去を求めて残像を求めて雨降り出した窓の外を見ていた。
「絳攸、」
静かに、できるだけ彼の気をそがないようにゆっくりと先を促す。
「ある、晴れた日にな。父が、顔も覚えていないんだが。」
たぶん、血は繋がっていなかったと思うが、父がいて。
病弱だった母がいて、俺がいて。
思い出したくない、というのは彼の幼少時代の事だったからか。
確かに黎深様の養子なるまではいろいろと苦労していたのだと思う。
「その父が、俺の手を引いているんだ。そのまま山に連れて行かれた。
母がその時寝込んでいて、・・でも薬を買うような金は無かったからな。
よく覚えていないが、大方二人で薬草を探しに行ったんだと思う。」
そして付け足すように「ああ、」と。
「父はそう言う事に詳しかった。」
薬草とか、・・医者ではなかったが、病気や薬に詳しかったんだ。
淡々と事実だけをはきだす絳攸の表情に苦しさはない。
まだ夢の続きでも見ているかのような、
彼自身が懐かしいと形容した遠い遠い昔のほんの少しの記憶を手繰り寄せるような、
けれどそんな努力さえも煩わしいといった感じの何とも言えない顔。
違和感、がないと言えば嘘になる。
けれど私は彼の聞き手役に徹するしかないのだろう。
―絳攸の、心を潤すのは私の言葉ではないのだから―
私はただ聴けばいい、彼の気が収まるまで。
李・絳攸がいつもの絳攸に戻るまで。その後は、・・・きっとあの方がなんとかするのだろう。
それが悔しくて悲しくてやるせなくて、堪らなかったとしても。
それを決めるのは私ではなく、彼。
「うん、それで?」
「父と一緒に薬草を・・たぶんそうなのだろう、持って帰った。
夜になって寝る前に、父が母に煎じたものを飲ませているところを見たんだ。
それから・・・朝になって、」
そこで絳攸は急に言葉を切った。
心なしか表情のなかった顔に、わずかだが恐れと悲しみが見えた気がする。
「朝になって、部屋に・・・」
「うん。」
「入って、いって、」
「絳攸?」
だんだんと語尾が小さく震えるようになってくる。
見ると、絳攸の顔には驚愕と確かな恐怖が刻み込まれていた。
「あ・・・っ、」
「絳攸?どうしたんだい。」
絳攸は自らの肩を抱きこむ。
そしてそのまま身を縮めるように椅子の上で蹲ってしまった。
慌てて駆け寄ろうとすると、突然意味をなさないうめき声をあげて椅子から転げ落ちた。
「絳攸!!」
「ああっ!・・・楸っえい・・!」
「どうしたんだい!?」
急いで抱き起こすと、絳攸が縋るように服を掴んでくる。
わなわなと体を小刻みに振るわせながら、いっそ絶望でも見てきたような表情で私を見上げていた。
「大丈夫っ?」
「うう~、しゅうぇいっ・・」
どうにか彼を落ち着かせようと、微妙に声が裏返りそうになりながら、精一杯穏やかな表情で問い掛ける。
いまにも泣きそうに歪められた顔に僅かでも安堵を与えてあげたかった。
「楸瑛、楸瑛っ・・・・」
私の名を呼ぶにしたがって強くなってゆく腕の力が、
苦悶に支配された彼の表情が、額から落ちる大粒の汗が余りにも常の彼と違っていて、
浅はかすぎた自分に激しい嫌悪を覚えた。
―ああ、絳攸。君はこれほどまでの陰を背負っていたんだね。―
「しゅうえー・・・っ・・あ、」
無理に開けてはいけなかった。
どうしてあの時、
動揺していた君を無駄によく回ると評判のこの舌で巻いて誤魔化してしまえなかったのか。
「ごめん、・・ごめんね絳攸。」
「しゅっぅ、えいっ」
舌っ足らずに、それでもまるでこの世界の中の唯一の支えのように私を呼び続ける絳攸に。
謝罪する以外、今の私に一体何が出来るのだろうか。
「ごめん・・・・」
「しゅうえい」
大粒の涙をこぼしながら、力の入らなくなってきた指でそれでも私の衣を掴む君の手を、握り返すことは果たして許されるだろうか。
混乱しながらも私の姿に安堵を覚えてくれる君に寄り添う資格が・・・私に・・・・・・・。
「しゅう、えい・・」
だんだんと小さくなっていく彼の声が、優しく温かな睡魔の世界へ誘われている証だと、頭ではわかっているのに。
その時の私には、雷帝の最後通告のように感じられた。
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