Eternita
日々の愚痴・妄想小話駄々漏れの場所。 内容はさしてないです....
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「遥かなる時空の中で3」
将臣×望美、ED後南国の楽園にて。
甘くしようとして失敗しました…orz
もしかしたら続き書く、かも?
それにしても紅の月EDは良い歌だー
海はどんな時でも 変わらず うち寄せては還ってゆく
空はいつの時代も 相変わらず 高く広く在り続ける
昨日も暑かった、一昨日も暑かった。
今日も、暑い。
きっと明日も明後日も、この肌を焼くような熱は収まらないだろう。
誰もいない浜辺近くの木陰に座り、望美は悶々と考え続けていた。
そんなことを考えている自分が、自ら暇人だと認めているようでかなり癪だったりもする。
……事実は変えようもなく暇、なんだけど。
「あー、暇だなぁ。何かすることないかな」
一人で愚痴ってみたところでしょうがない。
この島に娯楽なんて数えるほどもないし、それ以前にそんなことをしている暇も、望美以外の人間にはまずないから。
つまり時間を持て余しているのは、結局望美一人なわけで。
「将臣君の意地悪ー!」
望美の(選んだ)仕事をことごとく却下し、半強制的に職場から追い出した張本人に叫んでみる。
そんなことをしても意味ないって分かってるけど…
無意味なことでも暇な時はやってみなくてはいけない、と思う。
だが、結局残ったのは虚しさだけ。
「暇、だなぁ」
本当は分かってる。
将臣君が私に気を遣ってくれたって事くらい。
平家の人たちと一緒にこの島(たぶん沖縄あたり)に来て、もう4ヶ月が経った。
みんなの努力で、無人島だったこの場所もだんだんと人が住めるようになってきて、私もだんだんに仲良くなってきた女の人たちと喜び合った。
それと同時に男衆の無駄のない動きに、驚いた。
京を落ちてから各所を渡りあるいたと言っても、元は都で大勢の傅かれていた貴族なのに…
将臣君達の指示の元、てきぱきと動く彼らは。
まるで最初から大工や漁師をしていたように見えて、酷くとまどった。
自然と唇を噛みしめる。
平家の人たちの頑張りを思うと、いつも胸が締め付けられる。
自分が白龍の御子としてした事が、間違っていたとは思わない。
また、絶対に後悔しちゃいけないってことも、わかる。
……でも。
「はぁー、」
馬鹿だな、私。
戦争を終わらせたかった、大切な人たちを守りたかった。
その一心で何度も運命を変えた、逆鱗を使って何度も時空を越えた。
それでも、手のひらから滑り落ちてしまった人達の方が圧倒的に多くて。
平家の兵士達もその中に含まれている。
将臣君は優しい。
今もきっと不満や苦情が出ているだろうに、私にはちらりとも見せない。
それが、余計に辛い。
「将臣君の馬鹿」
伸ばしていた足をたてて、顔を埋める。
明るい空と海を見ていられなかった、今の自分にこの島は眩しすぎる。
潮騒が遠くから聞こえる、どうせなら耳も塞いでしまいたかった。
知ってるのに、私だってそれぐらい分かってるのに。
ほんの半年前は敵だった人間を受け入れるなんて、簡単な事じゃない。
不満も恨みも全部承知の上で、それでももう将臣君と離れたくなくて、船に乗り込んだ。
だからそれなりに覚悟していたし、うち解けるための努力もした。
なにより同行することを決めたのは私なんだから、反感を受けるのは私であるはずなのに。
「馬鹿ぁ…」
なんで、なんで何も言ってくれないの。
私のことだよ、将臣君が責任負うことじゃないよ。
これじゃあなんのためにここにいるのか分からないじゃない。
涙声が恨めしい。
思いっきり鼻をすすって、さらに額を膝頭に押しつける。
「だーれが馬鹿だって」
「……え」
後ろから聞こえた声に一瞬脳が反応しなくて、我ながら間抜けな声がでた。
次に勢いよく頭を上げ、ぐりんと背後の樹を振り返る。
そこには、やっぱりというか、頭で思い描いたのと同じ人が立っていた。
急に視界が明るくなったせいか、少し目が痛い。
悠然と腕を組み妙に目を細めてこちらを見る長身男は、ものすごい威圧感が漂っている。
「あ、えーと、将臣君?」
「……お前には、俺以外のやつに見えるのかよ」
ほんの冗談のつもりなのに。
どうやら今の彼にはかわいらしい芸当は通じないらしい。
どうしたらいいのか分からず、とりあえずへらっと笑ってみる。
その瞬間、盛大な溜息をはかれた。
「ちょ、酷いよ将臣君」
「うるせー」
抗議も一蹴されて終わる。
むっとして睨むと呆れたように首を振り、将臣君は私の隣に腰を下ろした。
そのままいつにない不機嫌顔でこっちをじぃーーと見てくる。
「な、何?どうかしたの将臣君」
「どうかしたのはお前だろ」
「え?」
訳が分からず見つめ返すと、将臣君の逞しい腕がこちらに伸びてくる。
日に焼けた腕、毎日炎天下の中、汗を流す体。
3年間余りの日々が変えてしまったもの、こちらに来る前には持っていなかった。
「なんで泣いてんだよ…」
「え」
荒々しい言葉とはちがい、頬に目尻に触れる指はどこまでも優しい。
うん、やっぱり将臣君は優しい。
そして残酷だ。
ほら、また視界がぼやけてきた。
「望美?」
将臣君が厳しい表情を解き、困ったようにこちらを覗き込む。
強すぎる光を遮るように、将臣君は私と海との間を隔てる壁になっている。
暗くてよく見えない表情の中に、逡巡を感じとって、また苦しくなる。
精一杯笑って見せた。
「将臣君の、意地悪」
「なんだよ、俺のせいってか?」
わざとお茶らけて言う言葉に深く頷く、相対する将臣君の表情が一瞬強張る。
頬に触れる大きな手、厚い手のひらは私の涙で濡れている。
これ以上涙顔でを見られたくなくて、もう将臣君を見ていられなくて、その懐に飛び込んだ。
背に回す腕にありったけの力を込める、もう二度と離れないように。
離さないでいいように、その願いの叶うことを祈る。
「望美」
「……馬鹿」
ばかばかばかばかばか…
延々言い続けると、上からの溜息が耳にかかった。
くしゃりと髪をかき混ぜる手のひらは強さを増し、そこから伝わる熱も激しさを増す。
将臣君にも理解ったんだ、
引いてくれない涙を我慢しながらそう思う。
大雑把でいじめっ子な将臣君、でも生まれてから今まで望美の機微に一番聡く、3年のブランクはあれど一番そばにいたのは、悔しいことにこの人だ。
「うっ……ふぇっ」
「あー、泣くな分かったから」
嘘だ全然分かってない、そう言いたかった。
原因に気づいても、きっと改善しようとはしない。
将臣君が私の感情に聡いように、私だって将臣君の性格や行動をある程度は予測できる。
それが、幼馴染みの長所であり、最大の短所だと思う。
「嘘、ばっ…かりっ」
将臣君は黙って私の背中を抱く腕を強める。
ほら、何も言えないでしょう?
沈黙が将臣君の葛藤を雄弁に教えてくれる。
その苦しみからをこそ解き放ってあげたいと思うのに、残酷にもそれだけがいつもうまくいかない。
何度も何度も運命を上書きして、みんなを救いたいと願った。
けれど、その願いの最大の障害はいつでも将臣君で。
還内府として将臣君は平家の人々の安寧を願った、源氏の神子の願いとそれは相容れない。
平家の大将と八葉の一人、
こちらでの恩人と元の世界で繋がっていた私と譲君。
二つの間での板挟み状態が解けたと思ったのに……
いつの間にやら、涙は完全に引いていた。
ぽっかりと胸の真ん中に穴が開いたみたいな感じがする。
叫び出したくなるほどの寂しさに、ほんの少しの安堵が混じる。
「望美、俺は」
「言わなくていいよ」
将臣君の内に、これ以上立ち入っちゃいけない。
そしてこれ以上聞きたくなかったから、声を被せるように口を開く。
「ちょ、待てよ望美――」
「ううん、待たない。それ以上言わなくていい。」
将臣君は強情だから、私が何を言っても折れたりしない。
たとえそれが私のことでも……
だったらもう、いいんじゃないかなって、そう割り切ることにしよう。
一度目を閉じて、再び目を開けると同時に将臣君の胸を突く。
あっけないほど簡単に離れたお互いの距離に、また緩んできそうになる涙腺を叱咤し、勢いをつけて立ち上がった。
「駄目でしょ、将臣君。仕事ほっぽり出してぶらぶらしてちゃ!」
「は?」
私が見下ろす先で、将臣君の目が点になる。
それがなんだか無性におかしかった。
口元を押さえて笑いを押し込める、さすがに今ここで笑っちゃまずい。
「望美、お前」
言いかけた将臣君を視線で黙らせる。
上から目線だから威力アップでさらにお得だ。
木の葉から漏れる日差しが眩しいのか、将臣君が手を翳して目を細めた。
「私の仕事とったの将臣君なんだからねっ、二人分きりきり働かなきゃ」
軽い調子で言いながら、仏頂面に笑いかける。
本心ならいくら将臣君でも、それ以上探ることは出来ない。
「ちっ…分かったよ行きゃいいんだろ」
「もー舌打ちしない!」
手を伸ばして、立ち上がるのを助けた。
「ん?ちょっと将臣君、手痛いって…!」
握られたままの手をぐいっと引かれ、倒れ込んだのはさっきと同じ胸の中。
「将臣君!?」
「望美」
耳元で囁かれて、思わずふるりと背に電気が走った。
震えた私にかまわず将臣君は腕に力をこめる。
「ちょ、将臣君。痛い痛いっ」
肩を叩いて抗議してみるも効果はなし。
ちょっと無視!?
それは酷いんじゃないでしょうか。
すると、将臣君が再び頬に唇を寄せてきたので慌てて身構える。
「これで終わりだと思うなよ」
「うぇ?」
あまりにも真剣でせっぱ詰まったような声色に、本日二度目の間抜けな声が出る。
その瞬間、首筋に痛みが走った。
同時に離れてゆく将臣君の頭、そのまま体も解放してもらえた。
「…今の、何」
戻った視線に見上げながら本人に聞くと、にやりと笑い返された。
「え、ほんとに何?教えてよ将臣君っ」
「あーそのうちわかるさ」
にやにやとこちらを見下ろしてから、背を向け将臣君は歩き出す。
将臣君の姿はすぐ光に覆い尽くされ見えなくなった。
「今聞いてるのー!」
あいかわらず潮騒が耳をつく浜辺で、私の声は憎らしいほどの青空に吸い込まれていった。
空はいつの時代も 相変わらず 高く広く在り続ける
昨日も暑かった、一昨日も暑かった。
今日も、暑い。
きっと明日も明後日も、この肌を焼くような熱は収まらないだろう。
誰もいない浜辺近くの木陰に座り、望美は悶々と考え続けていた。
そんなことを考えている自分が、自ら暇人だと認めているようでかなり癪だったりもする。
……事実は変えようもなく暇、なんだけど。
「あー、暇だなぁ。何かすることないかな」
一人で愚痴ってみたところでしょうがない。
この島に娯楽なんて数えるほどもないし、それ以前にそんなことをしている暇も、望美以外の人間にはまずないから。
つまり時間を持て余しているのは、結局望美一人なわけで。
「将臣君の意地悪ー!」
望美の(選んだ)仕事をことごとく却下し、半強制的に職場から追い出した張本人に叫んでみる。
そんなことをしても意味ないって分かってるけど…
無意味なことでも暇な時はやってみなくてはいけない、と思う。
だが、結局残ったのは虚しさだけ。
「暇、だなぁ」
本当は分かってる。
将臣君が私に気を遣ってくれたって事くらい。
平家の人たちと一緒にこの島(たぶん沖縄あたり)に来て、もう4ヶ月が経った。
みんなの努力で、無人島だったこの場所もだんだんと人が住めるようになってきて、私もだんだんに仲良くなってきた女の人たちと喜び合った。
それと同時に男衆の無駄のない動きに、驚いた。
京を落ちてから各所を渡りあるいたと言っても、元は都で大勢の傅かれていた貴族なのに…
将臣君達の指示の元、てきぱきと動く彼らは。
まるで最初から大工や漁師をしていたように見えて、酷くとまどった。
自然と唇を噛みしめる。
平家の人たちの頑張りを思うと、いつも胸が締め付けられる。
自分が白龍の御子としてした事が、間違っていたとは思わない。
また、絶対に後悔しちゃいけないってことも、わかる。
……でも。
「はぁー、」
馬鹿だな、私。
戦争を終わらせたかった、大切な人たちを守りたかった。
その一心で何度も運命を変えた、逆鱗を使って何度も時空を越えた。
それでも、手のひらから滑り落ちてしまった人達の方が圧倒的に多くて。
平家の兵士達もその中に含まれている。
将臣君は優しい。
今もきっと不満や苦情が出ているだろうに、私にはちらりとも見せない。
それが、余計に辛い。
「将臣君の馬鹿」
伸ばしていた足をたてて、顔を埋める。
明るい空と海を見ていられなかった、今の自分にこの島は眩しすぎる。
潮騒が遠くから聞こえる、どうせなら耳も塞いでしまいたかった。
知ってるのに、私だってそれぐらい分かってるのに。
ほんの半年前は敵だった人間を受け入れるなんて、簡単な事じゃない。
不満も恨みも全部承知の上で、それでももう将臣君と離れたくなくて、船に乗り込んだ。
だからそれなりに覚悟していたし、うち解けるための努力もした。
なにより同行することを決めたのは私なんだから、反感を受けるのは私であるはずなのに。
「馬鹿ぁ…」
なんで、なんで何も言ってくれないの。
私のことだよ、将臣君が責任負うことじゃないよ。
これじゃあなんのためにここにいるのか分からないじゃない。
涙声が恨めしい。
思いっきり鼻をすすって、さらに額を膝頭に押しつける。
「だーれが馬鹿だって」
「……え」
後ろから聞こえた声に一瞬脳が反応しなくて、我ながら間抜けな声がでた。
次に勢いよく頭を上げ、ぐりんと背後の樹を振り返る。
そこには、やっぱりというか、頭で思い描いたのと同じ人が立っていた。
急に視界が明るくなったせいか、少し目が痛い。
悠然と腕を組み妙に目を細めてこちらを見る長身男は、ものすごい威圧感が漂っている。
「あ、えーと、将臣君?」
「……お前には、俺以外のやつに見えるのかよ」
ほんの冗談のつもりなのに。
どうやら今の彼にはかわいらしい芸当は通じないらしい。
どうしたらいいのか分からず、とりあえずへらっと笑ってみる。
その瞬間、盛大な溜息をはかれた。
「ちょ、酷いよ将臣君」
「うるせー」
抗議も一蹴されて終わる。
むっとして睨むと呆れたように首を振り、将臣君は私の隣に腰を下ろした。
そのままいつにない不機嫌顔でこっちをじぃーーと見てくる。
「な、何?どうかしたの将臣君」
「どうかしたのはお前だろ」
「え?」
訳が分からず見つめ返すと、将臣君の逞しい腕がこちらに伸びてくる。
日に焼けた腕、毎日炎天下の中、汗を流す体。
3年間余りの日々が変えてしまったもの、こちらに来る前には持っていなかった。
「なんで泣いてんだよ…」
「え」
荒々しい言葉とはちがい、頬に目尻に触れる指はどこまでも優しい。
うん、やっぱり将臣君は優しい。
そして残酷だ。
ほら、また視界がぼやけてきた。
「望美?」
将臣君が厳しい表情を解き、困ったようにこちらを覗き込む。
強すぎる光を遮るように、将臣君は私と海との間を隔てる壁になっている。
暗くてよく見えない表情の中に、逡巡を感じとって、また苦しくなる。
精一杯笑って見せた。
「将臣君の、意地悪」
「なんだよ、俺のせいってか?」
わざとお茶らけて言う言葉に深く頷く、相対する将臣君の表情が一瞬強張る。
頬に触れる大きな手、厚い手のひらは私の涙で濡れている。
これ以上涙顔でを見られたくなくて、もう将臣君を見ていられなくて、その懐に飛び込んだ。
背に回す腕にありったけの力を込める、もう二度と離れないように。
離さないでいいように、その願いの叶うことを祈る。
「望美」
「……馬鹿」
ばかばかばかばかばか…
延々言い続けると、上からの溜息が耳にかかった。
くしゃりと髪をかき混ぜる手のひらは強さを増し、そこから伝わる熱も激しさを増す。
将臣君にも理解ったんだ、
引いてくれない涙を我慢しながらそう思う。
大雑把でいじめっ子な将臣君、でも生まれてから今まで望美の機微に一番聡く、3年のブランクはあれど一番そばにいたのは、悔しいことにこの人だ。
「うっ……ふぇっ」
「あー、泣くな分かったから」
嘘だ全然分かってない、そう言いたかった。
原因に気づいても、きっと改善しようとはしない。
将臣君が私の感情に聡いように、私だって将臣君の性格や行動をある程度は予測できる。
それが、幼馴染みの長所であり、最大の短所だと思う。
「嘘、ばっ…かりっ」
将臣君は黙って私の背中を抱く腕を強める。
ほら、何も言えないでしょう?
沈黙が将臣君の葛藤を雄弁に教えてくれる。
その苦しみからをこそ解き放ってあげたいと思うのに、残酷にもそれだけがいつもうまくいかない。
何度も何度も運命を上書きして、みんなを救いたいと願った。
けれど、その願いの最大の障害はいつでも将臣君で。
還内府として将臣君は平家の人々の安寧を願った、源氏の神子の願いとそれは相容れない。
平家の大将と八葉の一人、
こちらでの恩人と元の世界で繋がっていた私と譲君。
二つの間での板挟み状態が解けたと思ったのに……
いつの間にやら、涙は完全に引いていた。
ぽっかりと胸の真ん中に穴が開いたみたいな感じがする。
叫び出したくなるほどの寂しさに、ほんの少しの安堵が混じる。
「望美、俺は」
「言わなくていいよ」
将臣君の内に、これ以上立ち入っちゃいけない。
そしてこれ以上聞きたくなかったから、声を被せるように口を開く。
「ちょ、待てよ望美――」
「ううん、待たない。それ以上言わなくていい。」
将臣君は強情だから、私が何を言っても折れたりしない。
たとえそれが私のことでも……
だったらもう、いいんじゃないかなって、そう割り切ることにしよう。
一度目を閉じて、再び目を開けると同時に将臣君の胸を突く。
あっけないほど簡単に離れたお互いの距離に、また緩んできそうになる涙腺を叱咤し、勢いをつけて立ち上がった。
「駄目でしょ、将臣君。仕事ほっぽり出してぶらぶらしてちゃ!」
「は?」
私が見下ろす先で、将臣君の目が点になる。
それがなんだか無性におかしかった。
口元を押さえて笑いを押し込める、さすがに今ここで笑っちゃまずい。
「望美、お前」
言いかけた将臣君を視線で黙らせる。
上から目線だから威力アップでさらにお得だ。
木の葉から漏れる日差しが眩しいのか、将臣君が手を翳して目を細めた。
「私の仕事とったの将臣君なんだからねっ、二人分きりきり働かなきゃ」
軽い調子で言いながら、仏頂面に笑いかける。
本心ならいくら将臣君でも、それ以上探ることは出来ない。
「ちっ…分かったよ行きゃいいんだろ」
「もー舌打ちしない!」
手を伸ばして、立ち上がるのを助けた。
「ん?ちょっと将臣君、手痛いって…!」
握られたままの手をぐいっと引かれ、倒れ込んだのはさっきと同じ胸の中。
「将臣君!?」
「望美」
耳元で囁かれて、思わずふるりと背に電気が走った。
震えた私にかまわず将臣君は腕に力をこめる。
「ちょ、将臣君。痛い痛いっ」
肩を叩いて抗議してみるも効果はなし。
ちょっと無視!?
それは酷いんじゃないでしょうか。
すると、将臣君が再び頬に唇を寄せてきたので慌てて身構える。
「これで終わりだと思うなよ」
「うぇ?」
あまりにも真剣でせっぱ詰まったような声色に、本日二度目の間抜けな声が出る。
その瞬間、首筋に痛みが走った。
同時に離れてゆく将臣君の頭、そのまま体も解放してもらえた。
「…今の、何」
戻った視線に見上げながら本人に聞くと、にやりと笑い返された。
「え、ほんとに何?教えてよ将臣君っ」
「あーそのうちわかるさ」
にやにやとこちらを見下ろしてから、背を向け将臣君は歩き出す。
将臣君の姿はすぐ光に覆い尽くされ見えなくなった。
「今聞いてるのー!」
あいかわらず潮騒が耳をつく浜辺で、私の声は憎らしいほどの青空に吸い込まれていった。
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