Eternita
日々の愚痴・妄想小話駄々漏れの場所。 内容はさしてないです....
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「彩雲国物語」
楸瑛+龍蓮、藍兄弟ですよ1年ぶりです書いたの。
楸瑛が国試を受ける前、藍本家にいた頃の話。
楸瑛+龍蓮、藍兄弟ですよ1年ぶりです書いたの。
楸瑛が国試を受ける前、藍本家にいた頃の話。
雨が上がり
すでに日もとっぷりと暮れた夜空
勢いよく流れてゆく大きく柔らかそうな雲
誰が見ていても、誰も見ていなくても、月は今日も存在を楚々と知らしめる―― ・・・・
「龍蓮」
つめたい静寂を壊す声が庭に響いた。
龍蓮がそちらを向くと、楸瑛が欄干に腰掛けていた。
目が合う。
睨み合うようにお互いの視線は逸らされることなく、時間だけが過ぎる。
「龍蓮、そんな格好では風邪を引くよ。」
楸瑛はもう一度、今度はより大きな声で言う。
龍蓮は僅かに眉を寄せた。
お互い何も言わなかった。
空に浮かぶ、まるまると肥えた望月に限りなく近い月を見上げ続ける、傍らにいる人間のことなどすっかり忘れ去ってしまったように、ただ熱心に。
熱に浮かされるように、恋い焦がれるように、決して届くことのない天を臨む。
「愚兄」
先に口を開いたのは龍蓮だった。
「・・・・なんだい。」
楸瑛は自分より何段か高い処にいる弟を見上げた。
意外そうに、驚きながら尋ねてくる楸瑛にぴったりと視線を合わせ、普段からは考えられないほどまともな服を着た龍蓮は、これまた至極まともな質問をした。
「わたしを連れ戻しに来たのではないのか?」
(兄上はわたしの監視を命ぜられているのではないか、)
楸瑛はそんな疑問が聞こえる気がした。
さらに驚いた、自然と眉間に皺が寄るのがわかる。
(おかしい)
ここにきて、ようやく楸瑛にもおぼろげながら龍蓮がおかしいことに気がついた。
(否、この弟がおかしいのはいつもの事だけれど・・)
その延長では、ない気がする。
龍蓮の気持ちが揺れているような、少し迷っているのが伝わってくる。
いつも龍蓮なら『絶対』しない質問を寄越した事、
(・・・何か、あったか)
「ねぇ、りゅう・・」
口を開いた時、急に辺りが暗くなった。
先ほどまでの淡い光は無くなり、一気に闇が押し寄せる。
ちらりと空を見ると、うっすらと雲が光を帯びているだけで何もない。
「・・・・月は隠れてしまったか。」
口調だけは残念そうに龍蓮が言う。
その様子に、楸瑛は少しだけ口の端を上げた。
幼い頃から一人旅をしている末弟も、そろそろ15歳になろうとしている自分にも、今現在光はそれほど必要な代物ではない。
藍家直系としては不用心極まりないが、外れとはいえ此処も一応藍家の敷地内、この国の半分を牛耳る藍家の本邸にまで乗り込んでくる賊はまずいないだろう。
(感傷的になっている龍蓮なんて、珍しいし・・・・)
結局、そちらが本音ではあるのだが。
「龍蓮」
「・・・・・・・・」
弟は答えなかった。
すでに答えを出したのかも知れない、自分の中のもやもやと形無き異物への解答を彼は欲しているようだったから。
それがなにかまでは、自分にはわからないけれど。
(否、誰にも分からない)
藍龍蓮、であることは関係なく、詰まるところ自身以外のものの心など人間は決して分からない。
「私がここに来た理由はね、」
そこで一拍置く。
静かに龍蓮がこちらを向いたのが分かった。
「月が綺麗だ、と思ったからだよ。兄達に何か言われた訳じゃない。」
「月見ならば、あの無駄に綺羅綺羅しい庭ですれば良かろう。」
確かに、いつもなら迷わずそうしただろう。
藍家邸の領域というだけで、格別何か見るものがあるわけでなく使用用途もない、邸からも遠いこの場所は、今まで近寄ったこともほとんど無かった。
「何故、だろうね。・・・・ふとね、お前がいるかもと思ったんだよ。」
それは事実だった。
先日久しぶりに本邸に顔を見せた龍蓮が、また旅に出た、という報告は聞いていなかったから。
コレの感性に合う場所といったら、此処くらいだろう。
―――と、そこまで考えて思考が止まった。
(ということは、あれかな・・・・・私も龍蓮と同じだったということか)
訳もなく沈んでいたのは自分も同じだったらしい。
似た者同士、などとは普段は死んでも思いたくないけれど。
ここで共に月を見上げるなんて出来た光景だ、誰かが仕組んだのかと疑いたくなるほどに。
「偶然は何よりも強い。」
ぽつりと龍蓮が漏らした一言に、心の中で同意した。
やはり弟は天才だ、その事をいまさらにしみじみと感じる。
物音もさせず、いつの間にか目の前に来ていた龍蓮に首を傾げた。
(ああ、そうか・・)
月が出ていた。
長く分厚い雲の隙間から一部を除かせ、地上を照らしている。
木立が揺れ、葉の擦れる音が耳を支配する。
「風がでてきたね。」
雪はまだ降らないが、日の入り後に屋外に出るには少々寒い季節になった。
このままでは、冗談ではなく風邪を引くかも知れない。
「戻る。」
あっさりと言い切った龍蓮はすでにきびすを返していた。
(今夜は本当に素直だ。)
後をゆっくりと追いながら、腕を組む。
「まあ、私も所詮同じなのだけどね。」
嬉しいのか悲しいのか、考えない方が良い気がする。
随分高く昇った月を想った。
前座の月にこそ心を奪われる時がある。
完全でないもの、完璧であろうとして失敗したもの。
それらを慰めるように優しく降り注ぐ光の影は、誰かを連想してしまいそうになるほど。
そして、数分後。
再び雲に隠された月は、二度と出てくることはなかった。
すでに日もとっぷりと暮れた夜空
勢いよく流れてゆく大きく柔らかそうな雲
誰が見ていても、誰も見ていなくても、月は今日も存在を楚々と知らしめる―― ・・・・
「龍蓮」
つめたい静寂を壊す声が庭に響いた。
龍蓮がそちらを向くと、楸瑛が欄干に腰掛けていた。
目が合う。
睨み合うようにお互いの視線は逸らされることなく、時間だけが過ぎる。
「龍蓮、そんな格好では風邪を引くよ。」
楸瑛はもう一度、今度はより大きな声で言う。
龍蓮は僅かに眉を寄せた。
お互い何も言わなかった。
空に浮かぶ、まるまると肥えた望月に限りなく近い月を見上げ続ける、傍らにいる人間のことなどすっかり忘れ去ってしまったように、ただ熱心に。
熱に浮かされるように、恋い焦がれるように、決して届くことのない天を臨む。
「愚兄」
先に口を開いたのは龍蓮だった。
「・・・・なんだい。」
楸瑛は自分より何段か高い処にいる弟を見上げた。
意外そうに、驚きながら尋ねてくる楸瑛にぴったりと視線を合わせ、普段からは考えられないほどまともな服を着た龍蓮は、これまた至極まともな質問をした。
「わたしを連れ戻しに来たのではないのか?」
(兄上はわたしの監視を命ぜられているのではないか、)
楸瑛はそんな疑問が聞こえる気がした。
さらに驚いた、自然と眉間に皺が寄るのがわかる。
(おかしい)
ここにきて、ようやく楸瑛にもおぼろげながら龍蓮がおかしいことに気がついた。
(否、この弟がおかしいのはいつもの事だけれど・・)
その延長では、ない気がする。
龍蓮の気持ちが揺れているような、少し迷っているのが伝わってくる。
いつも龍蓮なら『絶対』しない質問を寄越した事、
(・・・何か、あったか)
「ねぇ、りゅう・・」
口を開いた時、急に辺りが暗くなった。
先ほどまでの淡い光は無くなり、一気に闇が押し寄せる。
ちらりと空を見ると、うっすらと雲が光を帯びているだけで何もない。
「・・・・月は隠れてしまったか。」
口調だけは残念そうに龍蓮が言う。
その様子に、楸瑛は少しだけ口の端を上げた。
幼い頃から一人旅をしている末弟も、そろそろ15歳になろうとしている自分にも、今現在光はそれほど必要な代物ではない。
藍家直系としては不用心極まりないが、外れとはいえ此処も一応藍家の敷地内、この国の半分を牛耳る藍家の本邸にまで乗り込んでくる賊はまずいないだろう。
(感傷的になっている龍蓮なんて、珍しいし・・・・)
結局、そちらが本音ではあるのだが。
「龍蓮」
「・・・・・・・・」
弟は答えなかった。
すでに答えを出したのかも知れない、自分の中のもやもやと形無き異物への解答を彼は欲しているようだったから。
それがなにかまでは、自分にはわからないけれど。
(否、誰にも分からない)
藍龍蓮、であることは関係なく、詰まるところ自身以外のものの心など人間は決して分からない。
「私がここに来た理由はね、」
そこで一拍置く。
静かに龍蓮がこちらを向いたのが分かった。
「月が綺麗だ、と思ったからだよ。兄達に何か言われた訳じゃない。」
「月見ならば、あの無駄に綺羅綺羅しい庭ですれば良かろう。」
確かに、いつもなら迷わずそうしただろう。
藍家邸の領域というだけで、格別何か見るものがあるわけでなく使用用途もない、邸からも遠いこの場所は、今まで近寄ったこともほとんど無かった。
「何故、だろうね。・・・・ふとね、お前がいるかもと思ったんだよ。」
それは事実だった。
先日久しぶりに本邸に顔を見せた龍蓮が、また旅に出た、という報告は聞いていなかったから。
コレの感性に合う場所といったら、此処くらいだろう。
―――と、そこまで考えて思考が止まった。
(ということは、あれかな・・・・・私も龍蓮と同じだったということか)
訳もなく沈んでいたのは自分も同じだったらしい。
似た者同士、などとは普段は死んでも思いたくないけれど。
ここで共に月を見上げるなんて出来た光景だ、誰かが仕組んだのかと疑いたくなるほどに。
「偶然は何よりも強い。」
ぽつりと龍蓮が漏らした一言に、心の中で同意した。
やはり弟は天才だ、その事をいまさらにしみじみと感じる。
物音もさせず、いつの間にか目の前に来ていた龍蓮に首を傾げた。
(ああ、そうか・・)
月が出ていた。
長く分厚い雲の隙間から一部を除かせ、地上を照らしている。
木立が揺れ、葉の擦れる音が耳を支配する。
「風がでてきたね。」
雪はまだ降らないが、日の入り後に屋外に出るには少々寒い季節になった。
このままでは、冗談ではなく風邪を引くかも知れない。
「戻る。」
あっさりと言い切った龍蓮はすでにきびすを返していた。
(今夜は本当に素直だ。)
後をゆっくりと追いながら、腕を組む。
「まあ、私も所詮同じなのだけどね。」
嬉しいのか悲しいのか、考えない方が良い気がする。
随分高く昇った月を想った。
前座の月にこそ心を奪われる時がある。
完全でないもの、完璧であろうとして失敗したもの。
それらを慰めるように優しく降り注ぐ光の影は、誰かを連想してしまいそうになるほど。
そして、数分後。
再び雲に隠された月は、二度と出てくることはなかった。
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